子ども近視の増加と重症化は世界的な問題となっており、さまざまな近視進行抑制治療が開発されています。
一方で、日本における近視進行抑制を謳う治療法には、明確なエビデンスやコンセンサスが得られていない治療法もあります。
以下に有効性・安全性が示されている代表的な治療についてお示しします。
- 1)低濃度アトロピン点眼液
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近視の進行を抑える方法として、世界で最も広く行われているのが低濃度アトロピン点眼です。もともと 1%のアトロピン点眼は、小児の斜視や弱視の診断・治療に長く使われてきました。この点眼薬を20~100倍に薄めた0.01%~0.05%の低濃度点眼には、点眼しない場合と比べて、点眼を始めた最初の1年間で近視の進行をおよそ30~70%抑える効果があることがわかっています。濃度が低いため、副作用はほとんどありません。通常のアトロピンでみられる「瞳が大きく広がってまぶしい」「手元が見えにくい」といった症状もほぼ起きません。さらに、使い方は 1日1回、寝る前にさすだけ なので、とても手軽です。
日本においては、2024年12月末に、近視進行抑制治療薬として初めて厚生労働省の承認を受けた参天製薬のリジュセア®ミニ点眼液0.025% が、2025年春より販売されています。
- 2)近視管理用眼鏡
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海外では、周辺部の網膜に、網膜の手前でピントが合う光をたくさん作用させたり、周辺部の網膜のコントラストを下げることで、近視進行を抑制しようとする眼鏡が販売されております。
2018年ごろから海外で販売されるようになった、これらの新しいタイプの近視管理用眼鏡は、通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で、装用開始から2年間でおおよそ55%〜60%、近視の進行を抑制することが報告されております。
眼鏡による治療であれば、より小さな子供でも簡単に実施することが可能です。
これまで海外で効果が確認されていた「近視管理用眼鏡」は、日本では医療機器としての扱いが難しく、長い間販売されていませんでした。
この課題に対応するため、厚生労働省の要請を受けて日本近視学会が2025年度にガイドラインを作成し、日本でも安心して「近視管理用眼鏡」が使えるようになりました。
現在のガイドライン(第1版)では、MiYOSMART®(HOYA社)と Stellest®(Nikon-Essilor社)が推奨されています。今後は、条件を満たした新しいレンズも順次追加されていく見込みです。
なお、アメリカではFDA(米国食品医薬品局)が2025年9月に、Essilor Stellest® 眼鏡レンズ を「子どもの近視進行を抑える効果がある眼鏡」として初めて承認しています。
- 3)多焦点ソフトコンタクトレンズ
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多焦点ソフトコンタクトレンズは、本来は老視(手元が見えにくくなる症状)を矯正するために開発された「遠近両用コンタクトレンズ」として知られています。
近年、海外ではこの技術を応用し、子どもの近視進行を抑えるための多焦点ソフトコンタクトレンズが各社から販売されています。1日使い捨てタイプなので衛生的に管理しやすく、国によっては低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーよりも広く使われている治療法です。ただし、日中に装用する必要があるため、ゴミが入ったときに自分で取り外すなどの自己管理ができる年齢になるまでは使えず、比較的年齢の高い子ども が対象になります。
多焦点ソフトコンタクトレンズの中で、「MiSight® 1day」(クーパービジョン社)は、長らく唯一アメリカFDAの承認を受けていた製品です。このレンズは世界各国で広く使用されており、臨床試験では装用開始から3年間で近視進行を59%抑制する効果が示されています。日本でも国内臨床治験が終了し、2025年8月に厚生労働省の承認を取得しました。今後は国内でも正式に使用できるようになり、近視抑制治療の新しい選択肢として期待されています。
CooperVision社のホームページから、CooperVision.com
- 4)オルソケラトロジー
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オルソケラトロジーは、カーブの弱いハードコンタクトレンズを睡眠時に装着して一時的に角膜の形状を平らにし、焦点を後方にずらすことで眼鏡やコンタクトなしで、良好な裸眼視力を得ようとする屈折矯正法です。
レンズを外しても一定時間はその形状が続くので、日中は裸眼で過ごすといったことが可能になります。
しかし圧迫できる角膜の上皮には限界があるため、矯正量はガイドラインでは4ジオプトリーの近視まで、となっています。
オルソケラトロジーは、近視の矯正が得られるだけでなく、装用開始2年間で、近視進行をおおよそ32%〜63%抑制することが示されています。
夜間に大人の管理のもとで装用できることから、年齢の低い子どもで、選択されることもあります。
欠点としては、適切な処方や管理を怠ると角膜感染症など失明につながる重篤な合併症を起こすこともあります。
常にガイドラインを遵守して使用する必要があります。
- 5)レッドライト治療法(red light therapy)
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2014年に偶発的に、中国で長波長の650nmの赤色光が、過剰な眼軸伸展を抑制することが発見されました。
2021年のアメリカ眼科学会雑誌に、レッドライト治療法の非常に高い近視進行抑制効果が発表されたことで、世界中で大きな話題となりました。
この治療で用いられる低出力の赤色光は、いわゆる可視光です。
実施方法は非常に簡便で、1回3分、1日2回、可視光である650nmの赤色光を、自宅で平日に覗き込むことというものです。
平日5日のうち4日間真面目に実施したお子さんの近視進行が約9割抑制されているという驚くべき結果でした。
レッドライト治療は、抑制効果においては、単独で最も優れた治療ですが、長期的な安全性に関してはさらなる研究成果が待たれます。
本治療法は適切に対象を選択し、効果と安全性を確認しながら、眼科医が慎重に経過観察する必要があります。
中国では、医師の管理なく、スーパーなどで販売されたケースなどが問題となっています。
日本ではこのようなことがないよう、眼科医の管理下で慎重に進める必要があるでしょう。
Eyerising社提供
子どもの近視の進行に対しては、これまで、さまざまな試みや動物実験での仮説が提案されてきました。
しかし、人間が使う上でのエビデンス(信頼性や安全性)を確立するためには、長期的かつ大規模な臨床研究を行って、確認する必要があります。
実際に研究を行ってみたところ、十分なエビデンスが示された、いつくかの治療法が、子どもの近視進行抑制治療として、日本でも厚生労働省の認可承認を受けはじめております。
今後は日本近視学会の監督のもと、適切な使用のためのガイドラインが整備され、継続的にアップデートされることで、有効で安全な治療が、日本の子どもたちの目の健康を守るために、安心して届けられるようになると考えられます。
- 参考文献
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